伝説的カルト映画の続編『ブレードランナー2049』の劇場公開から1年が過ぎました。
興奮からようやく醒めた頃合いなので、贔屓(ひいき)なしの評価になるかなと思い、イラストレーター・おフランス太郎先生にネタバレありのレビューを書いてもらいました。
この LA の片隅で〜
レプリカントがレプリカントを処分する…。
レプリカントでもあるブレードランナー K は、レプリカントからみれば裏切り者、人間からみれば人間のまがい物…。どちらにも属せない K にとって唯一の心の支えは、AI のジョイのみ…。
ある日 K は、レプリカントにかつて起こった「奇跡」と、それを巡る「謎」を捜査することになります。
そして捜査の末に K は、謎の鍵を握るブレードランナー・リック・デッカードにたどりつきます。
しかし 、対立するウォレス社のエージェントに、デッカードを連れ去られるだけでなく、AI のジョイまでも破壊されて、K は「深い傷」を負ってしまうことに…。
ブレードランナーの魅力と言えばやはりあの街並み。続編でどう見せてくれるか、ファンにとっては一大関心事でしょう。
前作のような雑然とした雰囲気こそ控えめですが、巨大な建築群が所狭しと立ち並ぶ景色は圧巻です。
何かに必死に抗っているような、何かから身を隠しているような、このストラクチャーに押しつぶされそうになりながら人々が生きていく世界の片隅で一体どんな物語が語られるのか、期待が高まります。
なが〜い、おつきあい
今作の上映時間は2時間43分、最近の映画としては長い方ですがみなさんはどう感じたでしょう?
正直私は最初に劇場で見た際には「長い」と感じました。
退屈はしませんでしたが、「謎」の真相が早く知りたいという気持ちがそう感じさせたのかもしれません。
ドゥニ・ヴィルヌーブ監督の他の作品は見たことがないのですが、セリフで物事を説明するのをあまりよしとしないようで、画面でそれを感じてもらうという手法のようです。
そのせいもあって、時には冗長に感じるシーンがあったりするのでしょう。
ただ、こういった SF 映画もあっていいと感じさせてくれます。じっくり、しっとり見る SF 映画。いいもんです。
機 械
この作品でやはり注目してしまうのは、主人公 K とパートナーであるジョイでしょう。
ジョイはウォレス社のいわゆる「寂しい人用の AI」という商品なのですが、寡黙で不器用なKと人間と較べるとどこか拙いジョイとの関係は痛々しく、はかなげでとても切なく感じます。
劇中とある理由からジョイは K に「ジョー」という名前を与えてくれますが、その後、デッカード拉致の際に二人には永遠の別れが訪れます。
そして、デッカード救出の決死行に身を投じる間際にKは「ジョー」の名前の由来を偶然に知ります。
要は、商品である「JOY」の広告の謳い文句である「あなたはいい人(GOOD JOE)」から来ていたのです。
多くの方が凡百の広告からとった名前であることにKが失望した、と感じたのではないでしょうか? 私も初見ではそう感じました。
しかし、今回レビューを書くにあたり、もう一度みなおして、あれこれ考えるうちに別の見方が出てきました。
商品である「JOY」にとってユーザーはかけがえのない存在なのでしょう。その代名詞が「GOOD JOE」です。
ユーザーが人間ならもとより名前があるのでそうはならないでしょうが、Kには名前がありません。そんなKにジョイがつけてあげたいと思ったのは?
それが、自分の中で「一番の名前」である「ジョー」だったのではないでしょうか?
もしも、Kが広告の「GOOD JOE」を見てそれに思い至ったのなら、その後のKの行動そのものが違って見えてくるように思います…。
雪の舞い降る階段に静かに横たわっていくK。「Tears in Rain」に包まれながら見せる K の表情は、「大義に命を懸けた」もののそれか、それとも…。
こんな妄想を抱かせてくれるのも、先に描いたように「言葉で多くを説明しない」監督さんの演出があればこそ許されるものなのかもしれません。
それにしても、今作の主人公 K は、あまりにも不憫すぎます。映画を観た方なら納得いただけるでしょうが、ホント踏んだり蹴ったりです。
「ゴジラ」ではありませんが、見終わった後に「これじゃあ K がかわいそうだ・・・」とつくづく思いました。
最後に〜
神格化されたといってもいい前作「ブレードランナー」の続編。製作はさぞ困難を極めたであることは、想像に難くありません。
では、その結果はというと、個人的には十二分に合格点ですね。ヒット作の続編で当たる作品を作るのが難しい例は枚挙にいとまがありません。
そんな中で、前作の世界とテーマをさらに広げて掘り下げて見せた今作は、大したもんです。
さらに言わせてもらえれば、少なくとも2回は見るべき作品であるということです。
しつこいようですが、私はレビュー書きのためにもう一度見てみると、長さを全く感じませんでした。
まあ、家でのんびり見ていたせいも大きいのでしょうが、それに加えてストーリーがすでに頭に入ってる状態ですので、2度目は画面の隅々に目が行くようになりました。
作りこんである画面ですので、見ているだけでも十分楽しめるのです。
それに加えて、落ち着いてじっくり対峙する映画であることも要因の一つと考えます。近未来社会を舞台にした SF はそれこそ山ほどありますが、そんな中でも必見の一作であると断言します。
あなたの右目には何が映りましたか?
イラスト:おフランス太郎